「大人しくしている方が三門のためだと思うんだな。行くぞ、ふくり」
たっと駆けだしたみくりが鎮守の森に消えていく。
「ごめんね麻、口は悪いがあれでも三門を心配しているし、麻を想って言ったんだよ。ああそうだ、もし“狛狐がない“って誰かに言われたら、掃除中だって言っておいて」
そう言って軽やかに走り出したふくりも鎮守の森に消えていく。小さなさなかが見えなくなるまで背中を見送った。
みくりの言葉を反復する。
『妖の毒に効くものは妖の世界にしかない。人間は帰ってこれないぞ』
ひとが住む世界が現世、妖の住む世界が幽世。ここへ来たときに三門さんからそう教えてもらった。
人は帰って来られない場所、幽世。一体どういうところなのだろう。
先ほど感じた寒気が思い出されて、慌ててかぶりを振った。
言われた通りに、大人しくしておこう。そう心に決めて歩き出した。

