声を掛けるまでもなく、私の足音で気が付いたのか顔をあげた男性は、私の手元をみて「あっ」と声をあげる。
眼鏡の奥の優し気なたれ目が印象的な、四十代くらいの男性だった。
男性は慌てて駆け寄ってくると、「それ、僕の、なんです」と息絶え絶えに言って咳き込む。
膝に手を付いて深呼吸を繰り返した男性は、しばらくして息が整ったのか恥ずかしそうに顔を赤くして頬をかく。
「……あの、すみません。見苦しい姿を見せてしまって。その手ぬぐいを拾ってくださったんですよね、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる男性に、慌てて首を振り手ぬぐいを差しだす。

