「さあ、もう戻れ。三門が探しに来るとまずい」
「まずい? どうして三門さんが来るとまずいの?」
「あやつは私のことを怖がっているのだ」
それはないでしょう! と笑いながら否定すると、円禾丸は不貞腐れた顔でそっぽを向いた。
「泰助に紹介された時、あやつは“かたな、こわい”と言いおった。それからは一度も姿を見せておらん」
「いつの話?」
「知らん。まあ、今の半分の大きさだったか」
「それは仕方がないよ。小さい子の言うことだし。刀のイメージが怖いものだったんだよ」
「麻はそんなこと言わなかったぞ!」
次第に駄々を捏ねる子どものように思えてくる。小さく吹き出すと、円禾丸はいっそうむくれた。
「とにかく、社頭へ戻るのだ。三門が探している声が聞こえる」
え、と目を瞬かせて耳を澄ましてみるが何も聞こえなかった。円禾丸に背を押されて宝物殿の扉の前に立つ。振り返って円禾丸を見上げると、彼は「うん?」と首を傾げた。
「ありがとう」
握りしめていた切羽を少し掲げて礼を言うと、優しく頭を撫でられた。

