「麻どのも座りますか」
腰掛けていた石段の隣を軽く叩いたケヤキが私に向かって手招きをする。私は唇を窄めて一つ頷き、ゆっくりと歩み寄った。
私が腰掛けると同時に、また空を見上げる。
流れる沈黙が苦しくて私も顔をあげれば、灰色の薄い雲のはった空が続いていた。
涙を堪えるような顔をして、ケヤキはひたすらに空を見つめた。
ケヤキは泣かなかった。さっきだって、夢の中で見た兄弟が魑魅になっていった時だって、真っ直ぐと空を仰いでいた。
どうしていつも空を仰ぐのだろうか。どうして。
「────どうして、ケヤキは泣かないの」
無意識に口から出た言葉。慌てて口元を押さえたが、ケヤキにははっきりと届いていたらしい。

