「本殿の隣に神楽殿という場所があるから、先にそこへ入って待っててくれるかな。麻ちゃんが着替えている間に入口の戸を開けておいたから、直ぐに分かると思うよ」
分かりました、と頷き、もう一度身だしなみを確認してから社務所を出た。
朝の眩しい日差しに目を細める。
張り詰めたような今朝の冷たい空気を、肺いっぱいに吸い込む。
慣れない雪駄をぱかぱかと鳴らしながら社頭を歩けば、本殿の前に人がいるのが見えた。
とても腰の曲がった八十くらいのおばあさん。灰色の着物に、くすんだ茶色のちゃんちゃんこを着ている。
おばあさんの足元には少し太った三毛猫がおとなしく座っていた。
参拝し終えたおばあさんがゆっくりと振り返る。おばあさんとふと目が合った。
「おやまあ!」

