少年はひとしきり笑って深く息を吐くと、少女と目を合わせる。
「な、何だよ」
少年の見たこともないような満面の笑みに、少女は少したじろいだ。
「楽しかった、面白くて、おかしくって」
「何が」
「木から落ちたことだよ! 世界が真っ逆さまになって、景色がゆっくり過ぎていくんだ。おもしろい、川が頭の上にあるのに、水が落ちてこないんだ! ねえ葵、木のぶら下がり方を教えてよ!」
立ち上がった少年は、額の痛みも忘れて少女の手を取り走り出す。驚いていた少女も、次第に走る速さを合わせ始める。
「師匠に任せろ!」
夕陽で地面に落ちた影が、ふたつ仲良く伸びていた。

