8:30から通常業務開始で、留守電も解除される。
その途端依頼が舞い込むのは常のことで、これがお昼まで続くのだ。
けれどその不安そうな表情を退けることができず、案外おひとよしの私は「三分だけなら」としぶしぶロッカー前に移動した。

すみません、嘘をつきました。
どういうわけか胸の内側がもぞもぞするのだけど、それを認めたくないし、間違っても廣瀬さんにバレてはいけないので、渋い表情を故意に作っていた。

「なんでしょうか?」

やはりあえて素っ気なく言う私に、廣瀬さんはさらに恐縮する。

「お忙しいところすみません。手短に言いますね。明後日、若手の有志で飲み会があるんですが、西永さんもいらっしゃいませんか?」

「有志?」

「はい。うちの課からはふたり、倉庫と総務の方からも何人か集まるみたいで、それで事務にも声を掛けようってことになって」

その手の飲み会はどこの営業所でもあることだけど、異動してきてからは課の飲み会しか出ていない。
ちなみにうちの課の飲み会は、桝井さんと私と園花ちゃんの女子会に、課長がしれっと参加している、親睦だけがやたらと深まる会である。

お酒は嫌いじゃない。
でも知らない人の中に入っていくのは疲れる。
コミュニケーションをはかるべきか、面倒だから断ろうか計算していると、

「それでですね、先輩から飯星さんも誘うように命令されたんですけど、飯星さんとは面識がなくて。西永さんから声を掛けてもらえませんか?」

つい細くなった目に、廣瀬さんがたじろいだ。

「無理にとは言いません! 声を掛けてもらえれば、それで十分です。これ、当日の場所です」

プリントアウトした居酒屋の宴会メニューの余白に、慌てて数字を書き込むと、

「ちょっと考えて、それで連絡ください」

と押し付けてきた。

プルルル━━━━━ワンコールですぐに、当の園花ちゃんの声がする。

「おはようございます。ササジマ物流第三営業所、飯星でございます」

時刻は8:30。
園花ちゃんの声に重なって、また別の電話が鳴る。

「考えておきます」

紙をポケットに入れて、走って電話を取った。

「お待たせいたしました! ササジマ物流第三営業所、西永でございます」

電話を受けながら目をやると、廣瀬さんが笑顔で手を振りながら事務所を出ていくところだった。