何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。

口では謙遜したけれど、お母さんに仕立てられた鏡の中のきれいな自分を見ると、本当に中井くんが私のことをもっと好きになってくれるんじゃないか、という気がした。

お母さん、本当にありがとうね。

そんな風に、心の中で改めてお母さんに感謝していると。


「ーー桜のお母さんなんだから。分かっちゃうのよ、桜のこと。何も言わなくてもね」


すでに私の隣から離れて、浴衣まわりの使わなかった小物を片しているお母さんから聞こえてきたその言葉が、寂しさを帯びていたので私は虚をつかれる。

ーーまさか、お母さん。


「気づいてたの……? ちょっと前までの、学校でのこと……」


するとお母さんは、片付けの手を止めて私を見て、微笑んだ。ひどく優しい笑みだった。


「桜が気づいて欲しくなさそうだから、気付かないふりしてたの。そのうち友達できるよね、って思ってたし。ーーでもね、やっぱりあんまり寂しそうに見えたから、もう直接問い詰めて、聞き出そうと思った。辛い思いをしている桜をほっとき続けるなんて、私には出来ないからね。ーーだけど」

「だけど?」

「そうしようと思った日に、桜、すごく楽しそうな顔をして学校から帰ってきたの。その顔を見て、あ、これならもう大丈夫かなって思えて、やめたの」

「……そう……だったの」