何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。





中井くんのご指導のおかげで、すっかりトラ子の扱いに慣れた私。今日も学校帰りに、手のひらでこねくりまわして地面にゴロンゴロンさせていた。


「これ以上無防備になっちゃったら、お前外で生きていけなくなるぞ」


中井くんがそんなトラ子に向かって悪戯っぽく言う。


「そうだねー。野良の世界は厳しそうだもん」


私はトラ子に視線を落としたまま、それっぽい返事をした。ーー無難に、いつも通りに。

さっき中井くんと仲良くしていた女の子に対する嫉妬らしき感情が、まだ胸の中に渦巻いていて。

なんとなく、中井くんと面と向かって話しづらかった。


「ご飯の取り合い、縄張り争い、自然との戦い……。いろいろあるからなー、外猫は」

「ーーなるほど、確かにそうだね」

「もう、常に気を抜けないわけよ、猫はさ」

「うん」

「……。で、折原さん。なんでそんな今日は元気ないの?」


トラ子の生きていく厳しさからの、突然の自分の話題に私は驚愕して思わず顔を上げる。するといつの間にか、私の向かいでしゃがんでいた中井くんとばちりと目が合った。


「え、ええ!?」


至近距離に綺麗な顔があったことと、感情の機微を勘づかれたことに、私は変な声をあげてしまった。


「何かあったの?」