何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。

すると、渉くんの表情が少し緩んだ。そしてプレイルームで遊ぶ実くんを遠目に見ながら、口を開いた。


「俺の母さんは2ヶ月前から入院してる。知ってると思うけど」


話しづらそうにしている私を察して、自らの事情を先に打ち明けてくれるようだった。

無骨に見えるけれど、やっぱり渉くんは優しい。弟の面倒を嫌な顔せずに見ている時点で、それは分かっていたけれど。


「桜、ひなげし病って知ってる?」

「ひなげし病……?」


聞いたことの無い名前の病気だった。ひなげし、という花は知っているけれど。

ひなげしは確かポピーの和名で、花言葉は「眠り」……だったかな。詩織が以前に言っていたことを、私はなんとなく覚えていた。


「まあ、知らないよな。レアな病気だし。ここ10年くらい前に見つかったばっかりで、発症した人も、少ないし。俺の母親がかかっているんだけど」

「お母さんが……? どんな病気なの?」


私が尋ねると、渉くんは相変わらず実くんの様子を見ながら、淡々と語り始めた。

ーーひなげし病。発症して、一度眠ってしまうと、5~7年は起きない、原因不明の病。そのまま起きずに亡くなってしまうケースも稀にあるそうだ。

しかし、目覚めた場合は、長いリハビリ生活を送れば、発症前と同じような生活ができることもある。