「なんだろ。なんか、結婚指輪を渡したみたいじゃね? この流れ」


そして私の手元を見て、中井くんは言った。確かに、左手の薬指って婚約指輪とか結婚指輪をはめる指だっけ。

それが分かった瞬間、恥ずかしいような嬉しいような、浮き足立った感情が込み上げてきた。

ーー本当に結婚指輪だったらいいのに。そんなことすら、私は思った。


「ーーいつか本物を渡すね」


照れくさそうに、私から目を逸らしながら中井くんが言った。

こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。

もちろん、まだ私達は高校生だし、若い男女のひと夏の思い出ーー中井くんと私の恋は、そんな一言で片付けられてしまう結果になるかもしれない。

だけど私は、10年後も20年後も、中井くんと一緒にいられることを願ってやまなかった。


「この指輪で、十分嬉しいよ」


そして私は、いまだに涙が溜まった顔で笑った。涙のせいで視界が少し歪んでいる。花火の滲んだ光も、中井くんの照れて笑った顔も、最高に輝いて見えた。


「ねえ、折原さん」


すると中井くんが真剣な声音で尋ねてきた。


「何……?」

「あの……桜って呼んでいい……ですか?」