何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。

「ーーまあ、お母さんはね。桜の顔見てれば何を思ってるのか、わかることが多いけどね。だけど、他の人はそうはいかないのよ」


するとお母さんは、じっと私を見つめて言った。表情は相変わらず微笑んでいたけど、瞳には真剣な光が宿っていた。


「他の人……?」

「友達とか……今日デートする彼とかね。言わなきゃ伝わらないことが、いっぱいあるの。だからちゃんと、自分の想いを伝えないとダメよ」

「ーー自分の想い」


最近、自分でも思ったばっかりだった。

恥ずかしさのあまり、中井くんに本音を言えないことが多々あった。

一緒に花火に行けて、にやけるほど嬉しいよってこととか。

中井くんに好きだって言われたのに、私は中井くんに、ちゃんと「好き」と言えていないこととか。


「ちゃんと言わないとね、大切な何かを失ったあとでは遅いの」


お母さんのその言葉に、私は重みを感じた。

私のお父さんは、お母さんが私を産んですぐに病死した。私は写真でしか、その顔を知らない。