局長に継嗣がいないので、豪は斎賀本家の跡取り息子。特務局は斎賀の人間が仕切ることが暗黙の了解となっていて、そのしきたりに従うならおそらく豪は未来の局長なのだろう。
うんざりすることに、ここで働き続けるならこの男は未来の上司だ。そしてもっと近い未来で旦那様になる予定である。本当に恐ろしいことに。
ふたりの仕事の会話を聞きながら、下がるタイミングを逸していると、豪が会話の途中にくるりと私の方を見た。

「いつまでも、そこにいなくていいぞ。暇人か」

あんたが変なタイミングで割り込んできたんじゃない。っていうか、ひと言多くない?
ムカムカしながら、局長のデスクの前を辞する。
つくづく斎賀豪は嫌なヤツだ。
はるか昔からこうなのだから今更変わりようがないのは知っている。冷たくて偉そうでとんでもなく意地悪で、私のことを心の底から馬鹿にしている。
同じ職場なんて、本当は嫌だった。

パソコンに向かって、別件の仕事をまとめていると、豪が私の隣のデスクに戻ってくる。そう、さらにげんなりすることにデスクまで隣なのよ。二十五人が在籍する広くはないオフィスとはいえ、隣にしなくてもいいじゃない。入庁三年目だけど、毎日席替えを希望したいと思って過ごしている。