「紹介しよう。私の遠縁にあたる子で、ツグミという。今年の春まで日本に住んでいた。今はゲンツに色々と教わりながら、私の補佐をしてくれている」
クレメンス様に紹介されて、私は姿勢正しくお辞儀をする。
「ツグミ・オダ=メッテルニヒです」
「ああ、きみが例の日本人か。メッテルニヒから手紙で聞いている。異国から来たばかりだが、気が利いて話も上手いそうじゃないか。ゲンツもきみを随分気に入っているとか」
「是非カッスルリーには会わせたいと思っていてね。紹介できて良かった」
褒められて面映ゆい気持ちになりながら、私ははにかんだ笑顔でカッスルリー外相と握手を交わす。すると。
「今日の会議について、きみの意見が聞いてみたいと話していたんだ。戦争のない国で育ったきみの目から見て、トルコ・ギリシャ問題はどう思う?」
いきなりクレメンス様にそんな質問を振られて、私は「えっ?」と一瞬慌ててしまった。
まさか私なんかに意見を求められるなんて思ってもいなかったので焦ったけれど、考えてみればここへは遊びで連れてきてもらっている訳ではないのだ。ヴェローナにやって来た誰もがこの問題を考え、自分なりの意見を持つ必要がある。
それにクレメンス様は時々こうして不意打ちで私の力量を量る。
慌てている場合ではないと自分に活を入れ、必死に頭の中で考えをまとめた。



