「あんた、『M』の親戚なんだろ。じゃあ教えない」

「え、M?」

「メッテルニヒ宰相のことだよ。今日のことも、Mには言わない方がいいと思うよ」

……どういうことなんだろう。さっぱり意味が分からない。

「今日僕とツグミが会ったことは、ふたりだけの秘密だ。僕達は何者でもない、ただの友達だ。それでいいだろう?」

「は、はあ……」

どうして正体を隠すのだろうか。さっき抑え込んだ彼への疑問が、またムクムクと湧き出そうになる。

不思議そうな顔をしていると、少年は自分の胸を親指で軽く叩きながら「僕のことは『レグロン』って呼んでいいよ」と言って、得意そうに歯を見せて笑った。

そして踵を返すと「じゃあね」と手を振って、今度こそ宮殿の奥へと去っていく。

「……レグロン……フランス語で子鷲のことだっけ?」

玄関ホールのシャンデリアの下に立ち尽くしながら彼を見送っていた私には、その背に一瞬、翼が見えたような気がした。