「どうかした? 具合でも悪いの?」

少年に顔を覗き込まれて、私はハッと我に返る。

いくら彼が変わってるからといって、妙なことを考えてしまったと内心苦笑して首を振る。

「ちょっとボーっとしてしまいました」

取り繕うように笑って言えば、少年はどことなくホッとした表情を浮かべた。

「それならいいけど。具合が悪いなら早めに医者に診せなよ。ウィーンは空気が悪いからね、すぐに肺を病む。あんたみたいに小柄で華奢な人は余計だよ、気をつけな」

どうやら本気で心配してくれていたようだ。そんな彼の優しさがなんだかいじらしくて、私は自分の胸がキュンキュンとしめつけられるのを感じた。

(ちょっと変わってるけど、優しくて無邪気で本当にいい子だなあ。すごく可愛い……)

こんな弟が欲しい、いっそ息子でもいいとさえ思う。いや、彼があと七年もすれば恋の相手だって……とアホなことを考えて、今の自分が本当は二十六歳だったことを思い出した。やめよう、さすがに十五歳差はハードルが高い。

「どうもありがとう。でも大丈夫ですよ。僕は小柄だけど身体はすごく丈夫なんです。ここ数年、風邪ひとつひいてませんから」

馬鹿な考えを払拭しながら言えば、ようやく少年の顔がパッと綻んだ。まるで花が咲いたみたいに明るいその笑顔は、初対面にもかかわらず私に『愛しい』と思わせるほどの魅力に溢れていた。