元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
私がとうとう本宮殿に出向き、皇帝陛下への謁見が適ったのは翌週のことだった。

まだウィーンに来て三ヶ月足らずの若造がこんなに早く皇帝陛下のお目通り適ったのは、もちろんクレメンス様の口添えがあったからに他ならない。

なんでも六月に入ると皇帝一族は夏の離宮であるシェーンブルン宮殿へ移動してしまうのだという。できることならその前に皇帝陛下に私を紹介したいというのが、クレメンス様の考えのようだ。

「お目通り適いまして至極恐悦にございます。ツグミ・オダ=メッテルニヒと申します」

「ふむ、お前の噂は耳にしているぞ。メッテルニヒ家の遠縁で日本から来たと。どれ、面を上げて見せよ」

初めて見る皇帝陛下の印象は、『さすが名門ハプスブルク家の当主、威厳がある!』……というより、『苦労人』という言葉がしっくり合うなという一言に尽きた。

オーストリア皇帝、フランツ一世。電子辞書によると五十四歳だったけれど、どうやら彼はこの世界でも年齢に大きなズレはないようだ。深い皺が刻まれた白髪姿は、充分壮年に見える。

スッとした面長の顔は凛々しく気品溢れるのに、その表情や全体の雰囲気からはどうにも抜けきらない慢性疲労感が漂っている。