元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
顰めた顔をジリジリと近づけてくるゲンツさんの台詞に、私は呆気にとられる。

(もしかして、やきもち焼いてる? 自分の弟子が他の上官を褒めたから?)

思わず噴き出しそうになりながら、私は近づいてくる顔を押し返して微笑んだ。

「も、もちろんです。僕のお師匠様はヨーロッパ一、いえ、世界一素晴らしい上官です。いつもご飯をおごってくれるし、大人の遊びを教えてくれたし、もちろん秘書としての知識もたくさん与えてくれて……ぼ、僕は世界一幸せな弟子だなあ!」

私の称賛を聞いて、ゲンツさんの顔がニーッと上機嫌に綻ぶ。まるで褒められた小学生のような分かりやすい笑顔だ。

「よし! それでこそ俺の弟子だ! 俺は世界一優しい上官だからな、肝に銘じておけ。もう二度と他の上官を褒めるんじゃねえぞ」

私を壁ドンから解放したゲンツさんは、高らかに笑い声をあげた。そしてホッとしている私の肩を強引に組むと、「そんじゃあ今夜も優しい俺様がお前を遊びにつれていってやるか!」と言って、引きずるように部屋の外へと連れ出す。

「い、いいんですか? この間の借金もクレメンス様に返してないんじゃ……」

「だーかーら、メッテルニヒに返す金を稼ぎにいくんじゃねえか。今夜は大勝の予感がするぜ」

ゲンツさんは大の美食家であると共に、大の博打好きだ。私にもしっかりと賭博を教えたうえ、ことあるごとにこのようにカジノへ連れていく。そして負けが込むとクレメンス様に借金をする始末なのだ。

(またクレメンス様に叱られるだろうに……懲りない人だなあ)

ゲンツさんに強制的に引きずられながらこっそり溜息を吐くけれど、こうして思いっきり遊んで仕事のストレスを溜めないことは大事なことだなと思い直し、私はおとなしく彼についていくことにした。