私はただ黙っていることしかできなかったけれど、ラデツキー将軍は夕陽を眺めながらゆっくりと言葉を続けた。
「……スタディオン大臣があのように言いたくなる気持ちも分かる。彼は国の大事な財政を預かっているのだからな。……けど、我々とて好きで軍を動かした訳じゃない。鎮圧とはいえこちらも兵を失った。未来ある若者が命を落とし、あるいは癒えない傷を負った。それを……無意味だなどと……。私は彼らの墓にどんな顔をして出向けばいい? 革命を抑えヨーロッパの平和のために尽くした英霊に、国の大臣たる者が何故あのような言葉が吐けるのか!」
やっぱり、ラデツキー将軍は真面目で情に厚い人なんだ。憤りと苦悩を滲ませた横顔からは、それが痛いほどに伝わってくる。
彼はしばらく唇を噛みしめると、片手で顔を覆って息を吐き出した。
「……すまない。あなたのような異国から来たばかりの若者に聞かせる話ではなかった」
「あ、あの……!」
従軍したことがないどころか、この世界にきたばかりの私がむやみに口を出せることでないのは分かっている。
けれど、拙いながらも自分なりに思いを巡らせることは出来る。



