私がそう答えると、ラデツキー将軍は驚くように目を瞠って「それは……素晴らしいな……」と感嘆の声を出した。
そして前を向き直し口もとに手を当てると、しばらく黙ってからポツリと零した。
「いつになればこのヨーロッパも、あなたの国のように戦火が絶える日がくるのだろうか。ナポレオンが失脚し大戦が終わったというのに、あちこちの国で新たなナポレオンを生み出そうとしている。私達はいつまでその芽を摘み取り続けなければならないのか」
オーストリアを中心に進められているウィーン体制は、王政と大国がヨーロッパを支配する旧体制こそが正義だとしている。けれど、大国に支配され続けている属国はフランス革命以降、独立を求めて革命を起こそうという動きが盛んになっているのだ。
今から二百年後の世界を知っている私は口を噤んでしまう。
旧体制を押しつけるウィーン体制が未来永劫続く訳はなく、各国は続々と独立を果たしていくのだから。
未来から見れば、革命を弾圧しているオーストリアの姿は無意味だ。けれど、今、このときを生きている人達に向かってそれを口にすることが良いことではないことくらい、私にも分かる。



