「……すっごい……」

それがこのオーストリアの王宮ホーフブルク宮殿を初めて間近で見たときの私の感想だ。

六月になりようやくクレメンス様に王宮へ連れていってもらえるようになった私は、ホーフブルクの広大さ、壮麗さにただひたすら目を瞠った。

王宮というのは複合施設だ。皇帝一族が生活したり執務を執り行う本宮殿を中心に、様々な施設が敷地内に建っている。広さはだいぶ違うけれど、大学の造りに似ているかもしれない。

大小の離宮に礼拝堂、劇場に王宮図書館。それにアウグスティナー宮廷教会。オランジェリーと呼ばれるガラス張りの植物園。さらに宰相官邸、公邸。行政官の宿舎。幾つもの広場にはオーストリアの英雄たちの石像があちこちに飾られ、広大な王宮庭園には池もある。

当然それだけ広ければ移動も一苦労だ。敷地内では普通に馬や馬車が走っており、街と何ら変わらない。

今日からしばらくクレメンス様は宰相官邸での仕事となるので、私も初同行だ。もちろんゲンツさんも一緒である。

本宮殿にまだ入れないのは残念だけれど、王宮敷地内にようやく入れたことは大きな進歩だ。メッテルニヒ邸でのお留守番の日々と違い、なんだか〝出勤〟している気分になる。

今日は午後から宰相官邸で会議があるという。会議に同席し、記録を取るようゲンツさんに命じられた。用意された部屋の大きさを見るに人数はそんなに多くないようだ。