元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
そんな訓練の甲斐があってか、私は少しずつ様々な場所へ連れ出されるようになった。

まずはクレメンス様と親しい間柄にある人達との夜会や食事会に出席し、メッテルニヒ家の遠縁として紹介してもらう。

まだまだ遥か東の島国・日本の情報が少ない時代だ。どこへ行っても私は注目を浴びた。

「日本人か、初めて見たよ。トルコ人ともまた違った感じだな」

「日本? 知っているわ、シノワズリでしょ。パリに行ったとき見たことあるわ、エキゾチックよね。え? 違う? それは清?」

「四か国語が話せるのか。顔はあまり似ていないけれどやっぱり宰相閣下の血筋だな」

大勢の人に囲まれ次々に話しかけられたけれど、クレメンス様に鍛えられたおかげで焦ったり戸惑ったりすることなく、優雅な素振りで対応できたと思う。もちろん内心は緊張しまくりだったけれど。

会うのは皆、少なからず宮廷に関わりのある人ばかりだ。いずれ正式な秘書官になったときに必ず必要になってくると思い、私は紹介された人達の名前と家柄役職領地を片っ端から頭の中に叩き込んだ。こういうのは元社長秘書だった私の十八番だ。

様々な夜会に出向き様々な人を紹介される中で、私が一番驚いたのは世界的大財閥のロスチャイルド家だった。なんでもクレメンス様とは懇意な仲で、オーストリアは随分とロスチャイルド家から支援を受けているらしい。

二十一世紀でも世界のトップ銀行として名を馳せるロスチャイルド家を前にして、私は自分が今ヨーロッパの中枢にいることをヒシヒシと肌で感じた。

それから他にも大きな収穫があった。

夜会やサロンなどで様々な話を聞いているうちに分かったのだけど、どうやらこの世界は私が知っている歴史と違う点がいくつかあるらしい。