元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
それを胸に抱えてて廊下に飛び出すと、私は一目散にクレメンス様の書斎へと走っていく。

「失礼します! あの、クレメンス様、これ……」

この靴を誰が用意してくれたかなんて、考えるまでもない。というか、この世界でまだほとんど知り合いのいない私に、何かを与えてくれるのがクレメンス様しかいないんだけれども。

彼は開いていた本に視線を落としたまま、「ああ、届いたか。ダンスの練習のときにはそれを履きなさい」と、なんてことのないように言った。

そして、靴を抱きしめたまま感激で顔を輝かせている私の方をチラリと見て、「そんなに喜ぶことか」と小さくプッと噴き出した。

「ありがとうございます! 頑張って練習しますね……って、無理はしない程度に、です」

うっかり張り切ってしまい注意されたことを慌てて取り繕うと、クレメンス様はついに肩を揺らしてクスクスと笑い始めた。

山羊皮のパンプスは柔らかく無理なく私の足にフィットして、それからのレッスンで私が足を痛めることはもうなくなった。