花と陶器のテーブルピースに銀のカトラリー、生演奏を奏でる楽団。見るからに高級そうなレストランは出されるワインも料理も絶品で、ゲンツさんが「これはハンガリーの『トカイ・ワイン』っていって、世界中の王室御用達なんだ」とか「これはハプスブルク皇室名物『オリオ・スープ』。あのマリア・テレジアの大好物だ」などと、説明してくれた。
なんでもここのコックは元王宮料理人だったらしく、様々な宮廷料理を再現してくれるらしい。
クレメンス様のお屋敷で出してもらっていた食事も美味しかったけれど、惜しげもなく高級食材を使われた宮廷料理はやはり最高だ。
新鮮な野菜の添えられたフォアグラのアスピック寄せに舌鼓を打っていると、ゲンツさんが「美味いだろう? 食事は生きる楽しみだからな!」と満足そうに目を細めてこちらを見ていた。
「ああ、美味しかった」
食後のデザートのクグロフやコンポート、ジェラートまで綺麗に食べ尽くした私は、うっとりと余韻に酔いしれながら呟く。
すると、食後のコーヒーを嗜みながらゲンツさんが言った。
「いい食いっぷりだったな、安心したぜ。そんだけ食えるなら別に病弱って訳じゃなさそうだ」
どうやらゲンツさんは本当に私が病気じゃないのか心配していたようだ。
余計な心配をかけてしまったなと、少し申し訳なく思って眉尻を下げた。
「細く見えますけどいたって健康ですから、心配なさらないでください。それにこう見えて案外体力もあるんですよ。二日くらい徹夜したってへっちゃらです」