さらにこの街の面白いところは、新市街と旧市街をグルリと市壁で隔てているところだ。過去のオスマン・トルコとの戦いの名残らしい。
街道沿いには豪華な貴族の屋敷が並んでいるけれど、それを過ぎれば野菜畑や麦畑、ブドウ畑なども見えた。そして少し進むとまた豪華な建物や庭園が建ち並ぶといった情景を繰り返している。
そんな風景を通りすぎ歩く人が増えてきたところで、ゲンツさんは馬車を止めた。ここからは歩いていくと言う。
どうやら飲食店や服飾店などが建ち並ぶ通りのようで、行き交う人達で賑わっていた。王都だから貴族が多いのか、それとも国で一番の都会だからか、身なりの綺麗な人が多い。
女性はハイウエストで胸もとが大きく開きストンとしたスカートのドレスに、リボンや花のついたボンネットを皆被っている。
男性は私と同じようなテイルコート姿が多いけれど、時々軍服を着ている人も見かけた。働いている人はボタンシャツにベストやジャケットを着ている人が多い。
王宮から庶民まで貧乏で飢えているなんてゲンツさんは言っていたけれど、人々の表情に陰りは感じられない。むしろようやく訪れた平和を享受し、満喫しているようにさえ見えた。
「ツグミ、こっちだ」
辺りを興味津々に見回していると、ゲンツさんが人差し指でクイッと手招きをして細い路地へと入っていった。そして道に面した小さな扉を開き、地下へ続く階段を降りていく。
ついた先は地下とは思えない広さに、クリスタルのシャンデリアが幾つも輝いている会員制レストランだった。



