助けられた日から毎日三食いただいてはいたのだけれど、相変わらずメニューは豪華とは言い難いものだったのだ。
もちろん助けられたうえ居候の身で贅沢を言うつもりはないけれど、宰相という超エリートのお宅にしてはいささか不釣り合いだなと感じていたのは正直なところだ。
そんなここ数日の食事を思い出していると、突然ゲンツさんにガッシリと肩を組まれた。
「お前もどうせロクなもの食わせてもらえてないんだろう? 今日は美食家で弟子思いの俺様が美味いもん食わせてやるから、パーッといこうぜ!」
「は、はい!」
特にメッテルニヒ邸の食事に不満があった訳ではないけれど、せっかくならウィーンのご馳走とやらを食べてみたい。
ガッシリと組まれた肩は重たかったけれど、私はウキウキと胸を弾ませながらウィーンの街へと向かった。
考えてみたら、こちらの世界に来てからはメッテルニヒ邸から出たことがなかったのだ。
せいぜい庭を散歩させてもらったくらいで、実際にウィーンの街を見るのは初めてだ。
「わあ……」
まず目についたのは、そびえるように高い建物の数々だ。まるで天を突くような塔を携えた建物は遠目から見てもハッキリと分かるほど大きい。
馬車の窓から食い入るようにそれを眺めていると、「あれはシュテファン大聖堂だ」とゲンツさんが教えてくれた。



