「よろしいでしょうか」

そう言って、クレメンス様が腕を伸ばした。

周りの侍女達は一瞬顔を見合わせたけれど、ゾフィー大公妃はためらわずにマクシミリアン王子を腕に渡す。

「よしよし。ああ、いい子だ。可愛い小さな王子。どうぞよい夢を」

優しく腕に抱きポンポンと揺らしているうちに、マクシミリアン王子は安心したように大人しくなった。

「……クレメンス様は赤ちゃんに慣れてるんですね」

「私には弟達がいたからな」

それはクレメンス・メッテルニヒとしてのことなのか、それとも孤児院にいた彼自身のことなのかは分からないけれど。

愛おしそうにマクシミリアン王子を抱く姿は、私が知る彼の中で一番幸福そうな顔をしていた。

そんなクレメンス様の姿を見て侍女達が惚れ惚れとしている中。

「面白いものね。この子はあなたをオーストリアから失脚させる皇帝になるのに、今はこんなに仲がいいわ」

ゾフィー大公妃が無邪気な口調で物騒なことを言い、クスクスと笑った。