元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
私の想像も及ばないほど過酷な過去を淡々と語るクレメンス様を見て、私は、戦争は悲惨だと何度も語った彼の姿を思い出していた。

彼が何故クレメンス・メッテルニヒに成り代わり、粉骨砕身して平和を求めていたのか。その片鱗が見えたような気がする。

「飢えと寒さに震え暴力に打ちのめされるたびに、私は考えたんだ。『どうして自分は高貴な血を引く末裔なのに、こんな惨めな思いをしているんだ』『どうして母はハプスブルクの姫君なのに、下卑た男達に絞め殺されなければならなかったんだ』……ってね。答えは簡単だったよ。第一次大戦でオーストリアが負け、ハプスブルク王家が解体されたからいけないんだ。戦争が起きず今も王家が存続していたならば、母も自分も人に傅かれ何不自由ない人生を送るはずだった。ヨーロッパが平和だったら、オーストリア帝国が衰退しなければ、私に降りかかる不幸は存在しなかったんだと気づいたんだよ」

「……だから……クレメンス様は頑なにヨーロッパの平和を求め、オーストリアの威信を守ろうとしていたんですか……?」

初めて問いかけを口にした私に、クレメンス様はニコリと口角を上げて見せた。

「私がトリップしたのは十七世紀のスペインだった。最初は起きたことがまるで分からなかったけれど、やがて理解したんだ。これは、私の執念が起こした奇跡だと。私はハプスブルク家とヨーロッパの運命を変えるために、時代を超えてこの世界へ来たのだとね」

そうして三百年間、彼は誰かに成り代わり少しずつ歴史を変えてきたのだろう。ハプスブルク家が衰退しないように、ヨーロッパに根深い禍根を残さないように、と。