クレメンス様はしばらく私をじっと見つめた後、ふっと瞳を伏せて口を開いた。
「凛々しく愛らしい子だ。ナポレオンによく似ている。父親の血が濃いのだろう」
そして再びこちらを見つめた瞳には、偽りのない希望に満ちていた。
「あの子は世界に平和をもたらす福音になれる。賽は投げられた。ヨーロッパの未来は今、私達の手の中にある」
その言葉から、クレメンス様はやっぱりアウトサイダーだったと確信した私は、どんな顔をしていいのか分からず立ち尽くす。
(どうして? 何故黙っていたの? 私がアウトサイダーだと最初から気づいていた? 何が目的なの? どうしてあなたはクレメンス・メッテルニヒになったの? あなたは――あなたは、誰なの?)
彼にぶつけたい言葉が心で溢れるのに、震える唇からは出てこない。
泣き出しそうな顔でクレメンス様の顔を見上げ続けていると、彼は眉尻を下げて微笑み、子をあやすような手つきで私の頭を軽く撫でた。
「今日は寒いな。こんな日は暖炉の前に集まって物語を聞くのがどこの国でも定番だ。……少し、昔話でもしようか」
そう言うとクレメンス様は暖炉前の揺り椅子に腰を下ろし、私にも近くの椅子に座るよう促した。
そして私がおとなしく腰を下ろしたのを見てから、話し始める。パチパチと薪の爆ぜる音をBGMに、遠い物語を紡ぐように。



