(クレメンス様……)
私は彼の反応が気になった。大きく歴史が変わってしまったこの瞬間を、彼はいったいどう捉えるのだろうと。
「大公妃殿下。このたびはおめでとうございます。将来のヨーロッパを担う王子の誕生を、心よりお喜び申し上げます」
いつものように涼やかに挨拶をして、クレメンス様はゾフィー大公妃のベッドに近づいた。そして、フランツ・ヨーゼフ一世ではない赤ん坊を見て……慈しむように目を細めた。
「ああ、これは……ヨーロッパの福音ですね」
驚きも動揺もしていないその姿は、心から王子の誕生を歓迎しているようだった。
「ありがとうございます、宰相閣下。大切に育てますわ。それより私の秘書官ってば、赤ちゃんを前にすっかり固まってしまったのよ。日本では生まれたての赤ちゃんを見る習慣がなかったのかしら」
不審な様子を指摘されてしまい、私は焦ってアワアワとする。
「私のせいで長いこと男としての生活を強いてしまいましたから。赤子への接し方を忘れてしまったのでしょう。愛らしい王子と共に過ごすうちに母性を取り戻して、傅母のように愛情を注ぐようになりますよ」
にこやかに妻へのフォローを入れたクレメンス様に、ゾフィー大公妃も「そうね」と穏やかに笑う。
私はぎこちない苦笑を浮かべた後、「宰相閣下。少しよろしいでしょうか」と言って、クレメンス様と一緒に大公妃の寝室を出た。



