(……フランツ・ヨーゼフ一世は生まれなかった? まさか……未来のオーストリア皇帝が消えてしまった……? それじゃあこの先オーストリアは……)
心臓が痛いほど音をたてている。
今までも私の知る歴史とこの世界の歴史が違うことは幾つかあった。でもそれは主に年代や年齢が違うだけで、こんなに大きく史実と変わってしまったのは初めてだ。
フランツ・ヨーゼフ一世はオーストリアだけでなく世界に於いて大きな影響を及ぼす。なにせ彼は、1914年のサラエボ事件をきっかけに第一次世界大戦の開戦を宣言した皇帝なのだから。
私は分からない。フランツ・ヨーゼフ一世がいなくなった世界がどうなっていくのか。
マクシミリアンが生まれなかった兄の代わりにオーストリア皇帝となって、同じ道を歩むのだろうか。
けれどマクシミリアンはマクシミリアンで、メキシコ皇帝になって名を残している。マクシミリアンがオーストリアの王座についたなら、今度はその歴史が消えてしまう……。
足の先からジワジワと何かがせり上がっていくのを感じる。白い布地に、色が染みて染められていくように。
(もうこの世界は私の知る世界と完全に分離したんだ。もう私の知識では、未来のヨーロッパを予測することはできない)
動揺で手が震えた。そんな私を「ツグミ?」と不思議そうに見てゾフィー大公妃が小首を傾げたとき。
「失礼いたします。宰相閣下がお祝いを述べにお越しになられました」
侍従がそう言って、クレメンス様を部屋に通した。



