元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
「そんなにムキになるってことは、どうやら本当らしいな。『チビナポ』が肺の病だって噂は」

「ゲンツ、口を慎まないならこの屋敷から出ていけ」

鋭い視線をぶつけ合うふたりは、まるで一触即発といった状態だ。どうしたらいいのかと焦り、場を取り成そうと椅子から立ち上がろうとしたとき、ゲンツさんが視線を外した。

「まったく、お前は『アレ』の話になるとすぐ機嫌を損ねやがる。別に俺はその話がしたかった訳じゃねえよ。ツグミのやつがあんまりにもヒョロヒョロだから、身体を心配してやってるだけだ」

話が再び私に戻ってきてしまい、心の中で「えっ」と声をあげる。

けれど、どうやら触れてはいけない話題からは逸れたようで、部屋の緊張感は一気に解けた。

「ぼ、僕は確かに華奢ですけれど、身体には何も問題ありません。その、運動が苦手で家に籠って勉強ばかりしていたので筋肉が少ないだけです。だからご心配なく」

そろそろ私の話題からも逸れて欲しいなと思いながら愛想笑いを浮かべれば、ゲンツさんは「ふーん」と納得したように頷いた。そして。

「弟子の健康管理も師匠の仕事ってか。よし、何か精のつくものでも食いにいこうぜ! 俺がご馳走してやるよ」

なんと強引に私を立たせると、腕を引いて部屋を出ようとした。

「おい、ゲンツ」とクレメンス様が当然呼び止めるけれど、ゲンツさんは「昼休憩だ。夕方前には戻る」と言い残し、私の腕をグイグイ引っ張ったまま廊下へと出ていってしまった。