「……ただいま戻りました、公爵閣下。お父上からのお返事、確かにお持ちしましたよ。閣下が素晴らしい男子にお育ちになったとお伝えしたら、ナポレオン陛下はたいへん嬉しそうにしてらっしゃいました」
そう告げて、箱から出した封筒を胸の上で組まれた手の側に置く。
今にも飛び上がって喜びそうなのに、今日の彼はただ静かに目を閉じていて、らしくないと思った。
ああ、そういえば、と思い出して私は後悔する。
(指切りをするのを忘れていたなあ。必ず戻って、あなたに父上の返事を渡しますって。指切りしてから出発すればよかった)
そのことを悔やんだ途端、目からとめどなく涙が溢れ出した。
私を友達だと言ってくれた無邪気な笑顔に、もうどんなに乞い願っても、会えない。
――今際の際まで、あなたの帰りを待っていたのよ。と、ゾフィー大公妃は言った。
そして「最後にフランソワが思い浮かべた人があなただったら、少し妬けるわ」と、眉尻を下げて微笑んだ。
自室で窓辺に立っていた彼女は、泣いていなかった。
ただ雨露に濡れた樹々を眩しそうに眺めながら小さく鼻歌を歌っていて、私が部屋に入ると懐かしそうな笑みを浮かべて「おかえりなさい。お疲れ様」と声をかけてくれた。



