元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
(……最初から何もかも分かっていたんだ。彼は私がトリップしてきたばかりのアウトサイダーだと分かってた。だから私を手元に置くことに拘って、結婚なんて手段までとったんだ……。愛でも情でもない。私は彼にとって観察対象か利用するための同胞にすぎなかったんだ)

思い返せば何もかもがしっくりきた。二十一世紀からきた妙な服装と妙な荷物を持った女を、大帝国の宰相が理由もなく引き取るなんて、普通ならば絶対にありえないことだ。

男装などという危険を犯してまで私に行政官への道を作ってくれたのも、袂を分かつた後でも縁を切らなかったのも。未来を知っている私がこの世界でどう動くかを観察していたにすぎない。

一兵卒からフランス皇帝まで成り上がりヨーロッパを荒らしまわったナポレオンがアウトサイダーなら、政治という舞台から一矢を放ち彼を射ち落した彼がアウトサイダーなのも当然のように思えた。

(ならばどうして……せめて同士なんだと打ち明けてくれなかったの? お互い未来を知っているアウトサイダーならば、ぶつかり合うことなく共にヨーロッパの未来を考えていけたんじゃないの? 私はあの人にとってなんなの?)

考えれば考えるほど胸が苦しくて耐えられなくなっていく。

「……教えてください、クレメンス様。私は何者で、あなたは誰なんですか……」

夜の海を渡る船の甲板で、星空の下ひとり顔を覆って泣いた。

空に浮かぶ月は明るく大きくて、私はあと何十万回この月を見なければいけないのだろうと思うと、悠久の孤独に涙が止まらなくなった。