「そうか……、あの子が……」
ナポレオンはしばらく黙って手紙を読み耽った。ときどき、なんとも言えない切なく穏やかな表情を浮かべて。
そして六枚もの便せんに綴られたすべての手紙を読み終えると、しばらく目を閉じて遠い地の息子へ思いを馳せていた。
その姿に、私はとても安堵する。
パルマ公のこともあって、私は彼を残虐非道で家族に情などない男だと思っていた。だからせっかく手紙を届けても、感心を持たれない可能性もあることを危惧していた。
けれど、それはどうやら杞憂だったようだ。
ナポレオンはしっかりとライヒシュタット公の思いを受けとめている。息子と引き離され十年以上顔を見ることさえできなくても、彼は自分が父親であることを忘れてはいない。
「返事を書く。少し待ってくれ」
そう言ってナポレオンは総督に便せんとペンを持ってこさせると、牢屋の中の小さなテーブルで返事を書き始めた。
便せん二枚に綴られたそれは、封蝋で閉じられて見ることはできない。
ただ、きっとライヒシュタット公に生きる力を与える激励が綴られているだろうことは、私に手紙を渡したナポレオンの表情から感じられた。



