「あんたは運がいいぜ。俺みたいな親切な先輩がいてな。俺は〝成り代わり〟ができると気がつくまで百年近くかかっちまった。まあ、それに気づいてからは生きていくのが断然面白くなったけどな。特に――アイツが現れてからは」
そこまで言って、ナポレオンは「ん?」と何かに気づいたように、私の持っていた箱をマジマジと見つめた。
この平べったい箱にはライヒシュタット公から預かってきた手紙が入っている。大切なものなので万が一にでも濡れたり汚したりしないように、ゾフィー大公妃が用意してくれたものだ。
箱は黄金でできていて蓋のところにハプスブルク家の紋章が入っている。それを見てナポレオンは突然大声で笑い出した。
「あっはっは! そうか、あんたまだ同士の気配が感じ取れないんだな。そうか、気の毒に――間近にアウトサイダーがいたのに、何も教えてもらえなかったんだな」
「え?」
ナポレオンの口から、またしても信じがたい言葉が出てくる。
「あんたがハプスブルク家からの遣いで来るような立場ならば、必ず会っているはずだ。その男と。面白い男だぜ。そいつと競い合っているから俺は何百年も退屈せずに済んでるんだ。今回はこの通り負けちまったが、次は俺が勝って見せるさ」
名を出されずとも、私の頭にはあの人の顔が容易く浮かぶ。そんなはずはない、信じたくはないと思うのに、まるでパズルのピースのように何もかもが当てはまっていった。
「まあ、あんたにもまた会うだろうよ。なんたって俺達は永遠に生き続けるんだからな。あんたも早くこの世界で面白いことを見つけた方がいいぜ」
そう言ってナポレオンが楽しそうに笑ったとき、部屋の扉が開いて総督と護衛が入ってきた。



