私から離れたゲンツさんを見て、内心ホッとする。
彼の前では一応私は『男』なのだ。あまり接触されたり近づかれたりすると、女だとバレる危険性がある。
けれどホッとしたのも束の間。ゲンツさんはクレメンス様の手から逃れると再び私のもとへやって来て、腕を掴んできた。
「でもよお、こいつの華奢さは異常だぜ。これじゃまるで女だ。日本の男ってのは、まさかみんなこんなにヒョロヒョロなのか?」
いくら私の身体の凹凸が少なくて色気がないからといって、やっぱり男性の体格とは明らかに違う。
男装計画は無理があったんじゃないかとハラハラしていたときだった。
「それとも、まさかツグミも『あの坊や』と同じなんじゃあるまいな?」
ゲンツさんが眉を顰めて言った言葉に、クレメンス様の表情が一変した。それどころか部屋が一瞬で妙な緊張感に包まれたのが分かる。
クレメンス様はさっきまでの余裕を顔から消し、氷のように冷ややかな視線でゲンツさんを射た。
「ゲンツ、口を慎め。いくらここが私の屋敷とはいえ、迂闊なことを口にするな」
口調は冷静だけれど、有無を言わさぬ圧を感じる。
よっぽど触れてはいけない話題だったのだろうかと、私まで緊張していると、腕を離したゲンツさんが皮肉気な笑みを浮かべてクレメンス様を見据えた。



