元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
「へ?」

そして驚いている私に書類の束を押しつけ、くたびれたように額に手を当てて首を振る。

「きみは詰めが甘い。せっかく私が作ってやった人脈をもっと活かせ。こんなもの管理局の人間に金を握らせて頼めば、簡単に手に入るだろう」

クレメンス様が私に手渡したものは皇帝陛下の許諾が入った正式なオーストリアの入出国許可証と渡航許可証だった。

「……クレメンス様。これ……」

驚きで何度も瞬きを繰り返す私にクレメンス様は背を向けると、さっさと出口へ向かって歩いていってしまう。そして。

「何があっても必ず私の元へ戻るんだ。必ず、――それを忘れるな」

そう言い残して、扉を出ていった。



クレメンス様の連れてきた警察は、そのまま私の旅の護衛についてくれた。

おかげで泥棒や強盗の危険に晒されることなく、私はフランスの港を出発することができた。

しかし三ヶ月の船旅はとんでもなく過酷であることは言うまでもなく……。最初の一週間は船酔いとの戦いだったし、嵐に巻き込まれたときは何度も海の藻屑になることを覚悟した。当然湯浴みどころか水浴びもほとんどできない状態で、人生でもっとも不潔な期間を過ごしたと言えよう……。

それでもライヒシュタット公の手紙を届けたい一心で耐え抜いた私は、オーストリアから馬車と船で合計四ヶ月の旅路の末、ついにセント・ヘレナ島へとたどり着いたのだった。