「……どうしてここに……」
「きみの考えぐらい読める。引き返せ。今ならその企みを見なかったことにしてやる」
厳しく見据える眼差しからは、真剣な怒りがヒシヒシと伝わってきた。クレメンス様は法を犯してでも強行突破しようとした私を厳しく見咎めている。
「……行かせてください。私はこの手紙をナポレオンに届けなければなりません。罪ならば帰ってから償います。牢に入れられても、縛り首にされても構いません。行かせてください」
無茶を言っているのは承知の上だ。それでも絶対、私は行かなくちゃならない。――きっとこの使命こそが、私がこの時代で鷲の子に出会えた意味なのだから。
こうなったら強行突破も辞さないと思い、密かに外套の下で護身のために持たせてもらった銃に手を掛ける。もちろんクレメンス様に撃つつもりはないけれど、威嚇することはできる。
警察に囲まれた私とクレメンス様の間に糸が張り詰めたような緊張が走った。
……すると。
「ああ、もういい。行きたまえ。私は妻を牢獄に入れる趣味も、ましてや妻と殺し合う趣味もまったくないんだ」
馬鹿々々しいとばかりに肩を竦め、クレメンス様が投げやりに嘆いた。



