ライヒシュタット公が幸福そうに頭を悩ませながらしたためた手紙を持って、私がシェーンブルン宮殿を出たのは十日後のことだった。
セント・ヘレナ島への渡航許可は下りなかった。
手紙であってもナポレオンとライヒシュタット公の接触は禁止だという、クレメンス様の判断だった。
何度も何度も話し合ったけれど最後まで許可はもらえず、私はゾフィー大公妃のサインが入った出入国許可証と渡航許可証でセント・ヘレナ島を目指すことにした。
はっきりいってこの許可証がどこまで通用するか分からない。
正式な皇帝陛下の許諾がないものを使おうというのだから、下手をしたら密入国扱いで逮捕される可能性だってある。
危険な橋だと分かっている。けれど、渡らない訳にはいかなかった。この手紙だけは命に代えてでもナポレオンに届けなければならないのだから。
セント・ヘレナ島へ行くためにはフランスの港に出なくてはならない。まずは通過するドイツとの国境を突破することが最初の関門だった。
――ところが。
「皇帝陛下の許諾のない渡航許可証、および入出国許可証は違法である」
国境にある入国管理局で私を待ち構えていたのは、警察を連れたクレメンス様だった。



