皇帝一家がホーフブルクに戻ってもふたりがシェーンブルンに留まることを許されたのは、皇帝陛下のせめてもの慈悲だろう。
夫をホーフブルクに帰しライヒシュタット公につきっきりで看病をするゾフィー大公妃のことを、口さがない人達は好き勝手に噂した。
けれど彼女はそんな評判などこれっぽっちも気にせず、ただライヒシュタット公が少しでもつらくないように献身的に尽くしている。
……どうしてこのふたりが夫婦ではないのだろうと、私は何十回も思った。
もし今が二十一世紀だったなら、ふたりは間違いなく結婚していただろう。そしてふたりで温かい地へ行き穏やかに療養し、もしかしたら病気も治ったかもしれない。
想像しても仕方のないことなのに、私は幸福な『もしも』を描くことが辞められない。
うっかりすると溢れそうになる涙をこらえて、私はライヒシュタット公に尋ねた。
「公爵閣下。何かしたいことはありませんか? 微力ではありますが、僕ができることでしたらなんでもいたします」
本当に些細なことしかしてあげられないけれど、少しでもライヒシュタット公の安らぐ顔が見たかった。
彼は「したいこと?」と呟いてしばらく悩んだ風を装うと、「司令部に帰って軍隊生活がしたいなあ」と困ったように微笑んだ。
「元気になったらすぐ戻れるわ。だからそれは後の楽しみにとっておきましょう」
きっとそれはもう叶わないのだと口にしない彼女の健気さが、痛い。



