唇を噛みしめ俯いた私に声をかけたのは、やはり陛下ではなくクレメンス様だった。
「ツグミ。陛下の御前だ、慎みたまえ。それにきみの職務は大公妃秘書官長だ。公爵閣下の療養にまで口を出すのは間違っている。立場をわきまえなさい」
一礼して去っていく私に、皇帝陛下は苦しそうな顔をしながらも何かを言うことはなかった。
十一月になりペストの流行が治まってきても、ライヒシュタット公とゾフィー大公妃はホーフブルクへ戻らなかった。
「ホーフブルクは嫌いだ。ジメジメして薄暗くて厳めしくて。シェーンブルンの方が開放的でまだマシだよね」
「私もそう思うわ。まるで牢獄みたいで好きになれないの。シェーンブルンの方が日差しもよく差し込むし、庭も美しくて好きよ」
午後の日射しを浴びながら、ライヒシュタット公とゾフィー大公妃はそんな会話を交わしていた。茶会のテーブルを囲みながらではなく、ライヒシュタット公はベッドに起き上がり、ゾフィー大公妃は脇の椅子に腰かけた状態で。
もはや病院のようなその光景に、オランジェリーでお茶会をした日がとても遠くに思える。
さすがに静養に注力したせいで、ライヒシュタット公の症状は少し収まっていた。けれど彼も、もう軍務に戻せとは言わない。
気持ちを落ち着けたライヒシュタット公はゾフィー大公妃の必死の励ましを受け、今は身体の回復に前向きな様子を見せている。いつか元気になって再び司令部に戻れる日を夢見ながら。



