彼が幼い頃から軍人に憧れていたことは皆知っていたけれど、ここまで軍務に忠実で責任感のある指揮官になることは予想外だった。

皇帝陛下も、彼の傅育官らもとても気がかりにしていたけれど、ゾフィー大公妃の心配ぶりはこちらが不安になるほどだった。

毎日ライヒシュタット公に手紙を書き続け、帰ってくることを祈り続ける姿はあまりにも可哀想で、私は思いきってアルザー通りの司令部までライヒシュタット公を説得にいくことに決めた。



「あれー? 駄目だよ、ツグミ。こんなとこに来ちゃ。今、ウィーンではペストが大流行なんだからさあ」

……それが、司令部に来た私を見たライヒシュタット公の第一声である。

「そんなに危ない場所だと分かってるなら、早くシェーンブルン宮殿にお帰り下さい! なんのために僕がここまで来たと思ってるんですか!」

なんとも他人事なライヒシュタット公に思わずプリプリとお説教すれば、彼はケラケラと愉快そうに眉尻を下げて笑った。

「まったくだ! でも僕はここが好きなんだ。仲間を見捨てて逃げ出したくないんだよ」

そんな風に言われてしまうと、こちらも困ってしまう。

確かに今の彼はすごく楽しそうだ。毎日が充実している様子が、その表情からも窺える。