ゲンツさんが正式に宰相秘書官を退任したと私が知ったのは、ベッドから起き上がれるようになった三日後で。

宮廷ではゲンツさんが自由主義に傾倒し、クレメンス様と意見を対立させたのが原因だと囁かれた。

真実をクレメンス様は語ってくれない。

ただひとつ教えてくれたのは、私の部屋にあったゼラニウムは花好きのゲンツさんが自分で育てたものを飾ってくれたのだとか。

ゼラニウムはドイツ圏ではポピュラーな花だ。季節的にもちょうど開花の時期になる。だから偶然かもしれないけれど、私の胸は切なく痛んだ。

『真の友情』そして『愚か』の花言葉を持つゼラニウムを、ゲンツさんが残して去っていったことに。

――いつかもし、ゲンツさんに再び会うことができたなら。

きっと教えてあげようと思う。

私の国ではゼラニウムは『きみありて、幸福』という花言葉を持つことを。