「……やります、男装。私はこの世界で秘書としてひと花咲かせるって決めたんです。それに宰相であるあなたに仕えられるのなら、これ以上光栄なことはありません。やらせてください、秘書官見習い。今日から私はメッテルニヒ家の遠縁の十八歳男子です」
力強く言った私に、メッテルニヒさんはククッと笑って口角を上げた。その表情はまるで自分の計画通りに物事が進んでいることを楽しんでいるように見える。
「よろしい。それではきみは今日からツグミ・オダ=メッテルニヒと名乗りなさい」
その言葉は、まるで神様が私に新しい人生を歩むことを許してくれたように聞こえた。
ツグミ・オダ=メッテルニヒ。これが私の第二の人生の名前だ。
「はい!」と元気よく答えれば、メッテルニヒさん……いや、クレメンス様は深く頷いてから指を掴んでいた私の手を離させた。
翌日から、秘書官見習いとしての私の生活が始まった。
と同時に、『十八歳男子』としての生活も始まる。
「ほっそい腕だなあ。日本では軍に従事してなかったのか?」
机に向かって必死に書物の書き写しをしていた私の腕を掴んで、ゲンツさんがしみじみという。
驚いてペンを取り落としてしまいながら、私は「はい、日本はしばらく戦がなかったので」と引き釣りそうな顔を無理やり微笑ませた。



