元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
なんだろう、ゲンツさんがボソボソと喋るたびに胸がドキドキする。身体が勝手に緊張して、手の平に汗が滲んできた。

「……ツグミ。俺はもう頭ん中グチャグチャで訳わかんねえよ。お前のこと、どういう目で見ればいいのか分かんねえ。生意気で手が掛かって恩知らずなくせに、俺はお前が可愛くて仕方ないんだよ。なのに、お前が女でメッテルニヒのものだって知ってから、ずっとはらわた煮えくり返ってる。お前は……俺にとってのなんなんだよ?」

問いかけと共に、私を抱えてる手にキュッと力が籠もった。

心臓の音がうるさいほどふたりの身体に響いている。

ゲンツさんが持て余している想いに、私は名前をつけられない。それはきっと私達の六年間も、ゲンツさんとクレメンス様の絆も壊してしまいかねないから。

「……ゲンツさん……」

何を言っていいのかも分からないまま、呼びかけたときだった。

「――離れろ、ゲンツ。五秒数えるうちにだ」

冷たい声と共に、私達の上に影が落ちた。

顔を上げるまでもなくその声が誰か分かった私は、ビクリと身体を強張らせる。

「ク、クレメンス様! あの、これは……!」

慌ててゲンツさんの腕から抜け出そうとしたけれど、思いのほか強く身体を抱きしめられてしまい、身動きが取れない。