元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
そんなある日のことだった。

私は大公妃殿下に頼まれて、ヨーロッパの著名な画家を調べるために奔走していた。なんでも次の夏季休暇で、ライヒシュタット公の肖像画を画家に描かせるのだとか。

誰にお願いすべきか悩んでいたとき、モリッツ・ミヒャエル・ダフィンガーという画家がいいという情報を得た。なんでもウィーンの美術アカデミー出身で、クレメンス様がパトロンになっているという。

私はさっそく彼の連絡先を聞こうと、久々に宰相官邸を訪れた。

「分かった。私から彼に依頼しておこう。詳しい日程が決まったら報せなさい」

快くそう言ってくれたクレメンス様にお礼を言い、部屋を出ようとしたときだった。

「夏季休暇はどうする。ホーフブルクの宿舎も誰もいなくなってしまうだろう」

その問いかけに一瞬ウッと言葉を詰まらせてしまう。

宰相秘書官を辞めてから私はホーフブルクの行政官宿舎で生活をしている。夏の間もいることはできるけれど、従僕達に夏の休みを取らせない訳にもいかない。

身の回りの世話をしてくれる人もおらず、仕事もないのにポツンとひとり宿舎に残ってる自分の姿が浮かんだ。この時代の宮廷官としては、あり得ない夏の過ごし方だ。

(ただでさえ最近あれこれ噂になってるのに、夏に宿舎に引きこもってるとか知られたらますます怪しまれそうだなあ。イタリアにでも脱出して、しばらくホテル住まいしてこようかな……お金かかるけど)

今さら焦って夏の予定を頭の中で立てていると、クレメンス様がまるで当然のことのように言った。