元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
「宰相閣下が自分の趣味であなたに男の格好をさせていたと聞いて……自分でも驚くほど怒りが沸いてきた。女性であるツグミ殿が夫の穢れた趣味のためにひどい苦痛を強いられてきたのだと思って。しかし……冷静になって考えると、それは違うのではないかと思えてきたのだ。どのような事情があるか知らないが、宰相閣下は悪役を引き受け一身に非難を受けようとしたのではないかと。げんにあなたは今でも女性扱いされることを拒み、男の格好をして行政官でいることを望んでいる。……私は宰相閣下にひどいことをしてしまったな」

この冷静で誠実な将軍が激昂して人を殴るだなんて、あまりにも意外だった。

そういえば、私が寝込んでいたときにクレメンス様が頬にシップを貼っていたことがあった気がする。痛みと熱にうなされていたせいでそれを尋ねる余裕もなかったけれど、まさかラデツキー将軍に殴られた痕だったとは。

(クレメンス様、私にはひとこともそんなこと言わなかった。男装女が趣味って吹聴するのは聖職者の共感を得るためって言ってたけど、私への非難をかわすためでもあったのかな……)

なんだか、胸がギュウギュウと締めつけられる気がするのはどうしてだろう。

考えてみればそんな噂を流して私を庇ったところで、彼にメリットはない。クレメンス様は私の面倒を見ると決めたから世話を焼いてると言っていたけど、それって彼にとってリスクばっかりだ。

「宰相閣下は昔から器用で不器用な方だ。いつだって悪者然としながら誰よりこのオーストリアのことを考えられている。……私はまだまだだな。あなたを庇う宰相閣下の本当の心が見えていなかった」

なんだかすごく、クレメンス様に会いたいと思った。すごくすごく、あの人の側にいたいと。

「ラデツキー将軍。僕とクレメンス様のこと、心配してくださってありがとうございます。お話、聞けて良かったです。これからも今までと変わらぬお付き合いをしてくれると嬉しいです。僕にも……クレメンス様にも」