元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!

 
私の知りたかったもうひとつの彼の意図、それはどうして私を男としてゲンツさんに紹介したのかということだ。

メッテルニヒさんは窓枠に後ろ手をついて凭れ掛かったまま、軽やかな口調で話し出した。

「きみの国ではどうか知らないが、オーストリアをはじめとしたヨーロッパ諸国では、女性が政治職の肩書を持つことはできない。男性より優れた政治センスを持つ女性も多くいるが、彼女達はあくまで王家や役人の妻としての扱いになる」

そうか、女性議員や女性の議員秘書が当たり前の現代日本とは女性の立場がまったく違う訳だ。

納得しかけたけれど、でもだからって男装という手段はどうなのかとも思う。

「『秘書官』という仕事に就きたいのなら、きみに男性のふりをしてもらうしか選択肢はない。それに加え、女性は結婚をして初めて社交界で一人前と認められる。どんなに優れた才能を持っていようとも、年若い未婚女性では鼻にもかけられない。つまり現状のままでは、きみはこのウィーンで何者にもなれないという訳だ」

『何者になれない』という言葉を聞いて、私は盛大にショックを受けた。

せっかくこの世界で第二の人生を頑張っていこうと決めたのに、今の自分では何者にもなれないだなんて。そんな虚しい話があってたまるものか!

「幸いきみの見た目は充分青年として通じる。……正確には青年というより少年に近い華奢さだが。どうする? 男のふりをしてきみの希望する秘書官を目指すか。それとも、何者にもなれないまま安穏として生きるか。あるいは――どこぞの役人の妻にでもなって夫の秘書代わりに生きるという道もあるぞ」

メッテルニヒさんは指を三本立てて選択を迫ってきた。

迷うまでもなく私は最初に立てられた指を掴んで言う。