「私は二百年後の日本で貿易会社の社長秘書をしていました。頼りない社長を支えるため、自分のことは犠牲にして仕事に尽くしてきました。それこそ、仕事にかまけて恋人に捨てられるくらいに。……でも」
話しているうちにつらい記憶が甦る。もう二度と思い出したくなかった、日本での最後のできごと。
「ある日、社長は第二秘書を雇ったんです。とても……可愛い女性でした。私と違って髪が長くて胸もお尻も大きくて、色っぽくて人に甘えるのが上手で。でも彼女は社長室にこもりっきりで秘書としての仕事はほとんどせず、私の負担が軽くなることはありませんでした。理不尽さを覚えながら、それでも頑張って来たけれど……ある日、経費に大きな横領の形跡が見られたんです。日付と照らし合わせ、それが彼女の仕業だとすぐに判明しました」
話しているうちに、あのときの光景がありありと瞼の裏に浮かんでくる。
横領を発見したこと報告をしたとき、「よく見つけたな。ありがとう」と微笑んだ社長の顔。「あとはこちらで調査する」と言った社長に証拠となるデータをすべて渡したときの安心感。そして――翌朝、出社した私を待ち構えていた光景。
「渡した証拠のデータはすべて改ざんされ、私が会社のお金を横領したことになっていました。私に向かって『刑事告訴する』と言った社長の顔と、その隣で勝ち誇ったように笑うあの女の顔は、今も忘れられません。気がついたら私は会社を飛び出していました。どうしたらいいのか分からず、家にも帰れなくて、お酒を飲んでフラフラと街を彷徨っていたとき足を縺れさせて川へと転落したんです。そして目が覚めたとき――私は二百年前のウィーンに、クレメンス様のお屋敷にいました」



